雪が舞う。 桜の花びらの代わりに舞い降りるそれは、僕の頬に触れ、溶けて、滴となる。 これではまるで、泣いてるようだ… 「卒業すんのが寂しくて泣いてんのか、眼鏡君?」 案の定、隣にいた彼女が冗談っぽく尋ねてくる。 「まさか。会おうと思えばいつだって会えるってのに…からかわないでよ、イルカさん」 「東京の大学に行っちまいやがるくせに!」 そう言って、彼女の筋肉質で小麦色をした腕が背中を叩いてくる。 「東京の大学に行くのはイルカさんもでしょ…」 「だってあたしは、がり勉眼鏡君とは違って水泳推薦だぜ…もし怪我なんかしたら…」 彼女が自分の事になると、やけに気弱なのは昔から変わらない。 僕が"眼鏡君"と呼ばれて虐められてると相談した時は 「あんたの友達のあたしが、あんたを"眼鏡君"って呼べば、それは虐めじゃなくなるでしょ!ほら解決した!」 とかいい加減で自己中な事を言ってたくせに… でも、彼女の強引さに勇気づけられた事も確かだ。 「もっと前向きに考えてよ…イルカさん」 「あたしはさ、あんたが昔あたしの泳ぎを見て、イルカみたいだって言ってくれたのが、なんでか嬉しくて… それでここまで水泳やってこれたんだけどさ…あたしは東京でも、イルカになれるのかな」 「なれるよ。 ってかなってくれなきゃ困る。 何のために僕が東京の大学に行くのかわからなくなる」 あの時の彼女と同じように、自己中な事を言ってみる。 中々癖になりそうだ。 人事だと思いやがってなんて恨み言を呟く彼女を横目に、僕はブレザーのポケットから卒業式の為に買ったカメラを取り出す。 「とりあえず、写真撮ろ」 「なんでさ」 「なんでも」 証を残そう… この先どうなるかなんて解らないけど… 今、僕が眼鏡君で、君がイルカさんだって事は、これからも変わらないから… 「焼き増ししろよ」 「わかってるって」 出来るなら、これからも僕が眼鏡君としてイルカさんの隣にいれますようにと、祈りを込めてシャッターを切った。