「だから、警察は必要無いと言ってるの」 「何を言っておられるのですか?あの怪盗四十面相から予告状が来たのですぞ?!」 「子供への配慮で使えなかった"怪盗"、さらに世間に浸透しなかった二十面相の進化型である"四十面相"を使うなんて、 なかなかの乱歩ファンですこと…でしたらこちらも怪盗のお相手は探偵、と洒落込まなくては失礼だわ。 お話はこれまでよ。お引き取り願います」 小太りの警察官が憤慨した様子で出て行く。 部屋に残された少女は何事もなかったかの様にいくつかの書類にサインをし、一息ついたところで 「環、お茶のお代わり」と言った。 その直後、カーテンの後ろから執事の格好をした青年が現れた。 「理香様、よろしいのですか?警察に警備していただかなくても」 「警備は無理よ…異常なくらい入り組んだ屋敷の構造、至る所にある隠し扉… 極めつけに獲物のジュエリーボックスがどこにあるのか、わからない…」 少女がそこまで言ったところで、青年がティーカップを置く音がした。 少女は持っていた万年筆を置き、青年の方に笑顔で向き直る。 「だから私からジュエリーボックスの在りかを聞き出そうと思っても無駄ですよ、怪盗さん」 青年は一瞬、目を見開き驚いた顔をしたが…すぐにその顔は笑顔に変わった。 「お見事ですよ、小さな探偵さん…何故わかったのですか?」 少女はティーカップを指差し言う。 「確かに見た目と声は環にそっくり…だけど、幼い頃から徹底的に教育された環の優雅な動作を真似るのは、 流石に無理だったみたいね?」 「彼はティーカップを置く時にあんなに大きな音をたてない…って事ですか。これでも頑張ったのですが」 青年がそう言うのを聞き、少女は更に笑みを深めた。 「探偵役は私で不足は無いわよね?」 「勿論ですとも!それではまた今夜、屋敷の何処かでお会いしましょう!」 青年…怪盗四十面相はそう言うと、窓から外へと出て行った。 数時間後、彼らの知力の決闘が始まる。