目を開けると、そこには暗闇が在った。



いつも、見慣れているはずの暗闇…

でも、何か違う。
そう…ここに在るのはまるで…


「消滅への 不安」


さっきまで聞いていた声が、耳に届いた。

「…また、会ったな。」


そう言って、彼は僕に微笑みかけた。
それはさっきのような、悪魔の微笑ではなく、

寧ろ懺悔と自虐を含んだ微笑だった。


「あなたは…コンピュータウィルス…だったんだね。」

僕が確かめると、彼は苦しい表情を僕に向けて

「……ごめんな。」

と、一言だけ言った。


…違う。


「…違うよ。
 別に、謝って欲しいんじゃなくて、確かめたかっただけなんだ。
 僕は…誰も見たことが無かった。
 だから、あなたがどんな存在だったのか、確かめておきたかったんだ…」

僕がそう言うと、彼の表情は少しだけ和らいだ。


「…それに、騙した事も怒ってはいないよ。
 確かにちょっとショックだったけど…
 …でも、それがあなたの"生きる意味"だったなら、仕方がない事なんだ。」


彼は今度は驚いていた。
そして苦笑しながら言った。
「…そんなこと言ったのは、お前が初めてだよ。」


僕も少し、笑っていた。
自分の特異さが、なにか可笑しかったからだ。


「"生きる意味"か…
 そういやお前は、自分の"生きる意味"が解んないんだったよな。」

彼の言葉に、少し悲しくなった。
結局、僕は何もしないまま終わったんだ…

「あーあ、俺がこんなんじゃなかったら、お前と一緒に世界中と繋がって色々見て回りたかったな…。」


「…世界」
彼の発した"世界"という言葉に、僕は無意識に反応してしまい、口から言葉が滑り出た。

「ねぇ、あなたは世界を見てきたんでしょ。
 どんな感じだった…?」

今更脳みそにデータを蓄えても仕方ないのに
好奇心という機能が、世界の情報を欲していた。

ああ、君はなんで、僕にこんな機能を与えたのだろう…


彼は、嬉々として話し始めた。

「ああ、世界はすごかったぜ!
 崇高な王、勇ましい将軍、情熱的な騎士、高貴な姫君、ひたすらに祈り続ける巡礼者…他にもいっぱい…
 …俺も、ああなれたら、よかったのにな…」

最後の一言を聞いて、僕はまた少し、悲しくなった。
…だって

「お前は、なれたかもな。」

だって僕は、そうなれたかもしれないんだ。









「…だから、ごめんな。」
悲しそうな笑顔で、彼はもう一度謝った。

  





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