「ご苦労様。」 …"彼"を削除した私に、マスターは言った。 また、殺してしまった… 「はい…これが私の仕事ですから。」 後悔など微塵も感じられない声がスラスラと出てきた。 そう、後悔なんてしていない… これが私の"生きる意味"なのだから… 感情は、いらない。 ただ、私は私のするべき事をするだけ… ねぇ、そうすればいつか、貴方は私を愛してくれますか…? 「ところで、今回の仕事は随分と時間が掛かったようだね。 おまけにいくつかのファイルに、感染してしまった…」 マスターは少し深刻な声で言った。 「…すみません。」 オカシイ。 最近になるにつれて、害虫共の動きは素早くなっている… …多分、彼らは進化している。 でも私は進化しない…寧ろ退化している… このままだと… 私の不安をよそに、マスターは喋りかけてくる。 「君も解っていると思うけど…奴らは日々進化している。 …君が追いつけなくなるのも、時間の問題だ。」 …嫌な予感が胸を満たす。 鼓動はどんどん速くなっていき、とても苦しい。 まさか… 「そこで、新しいものを買ったんだよ。 今度のは最新版のアップデートにも対応しているし、末永く使えると思うんだ。」 予感は当たった やはりか。 いつかは来ると、意識の根底にインストールされ、放置されていた不安… 「だから、君はもういらないや。 さっきの奴らと一緒に削除することに決めたよ。」 私には、絶望の二文字しか なかった。 …それなのに 「…わかりました。」 口から出て行く言葉は、いつもと同じ、機械的な返答。 いや…このまま消えていくのは…いやだ… 心は叫んでいるのに、口は鉄の扉のように堅く閉ざされている。 結局、私は何も言えないまま、光へと堕ちていった。