そして、いきなり彼は現れた。


彼は僕と同じで、"自我"だけで生きていた。

はじめて会った、君と違う、僕と同じ存在……




「はじめまして。君はこんなところで、一体何をしているの?」
にこやかに笑いながら、彼が言った。


何て言ったらいいのか、わからなかった。
僕の声が、彼に伝わるかどうかすら、わからなかった。

それでも、僕は彼に返事をした。

だって、もしかしたら、彼は…


希望を込めた一言が、僕の口から流れ出た。
「僕は…何もしていないんだ。」

それを聞いて、彼は驚いていた。


はじめて、僕の声が他の誰かに届いた

心臓が動きだしたような衝撃が、僕に走った。
でも彼は僕とは違った意味で衝撃を受けていたようだ。

彼は僕に思いっきり怒鳴った。

「なにもしていない?!なんで?!
 君は自由なのに、なんで何もしないんだ?!」

…自由?


肥大化しすぎた脳が、"自由"の定義を引っ張り出してきた。


 自由【ジユウ】
心のままであること。思う通り。自在。


…なんで、僕は自由なんだ?

「あの人が僕を縛っているんだ。…僕は自由なんかじゃないよ。」

思う通りになんて、なっていない。
思う通りに出来ていたなら、きっと今、"僕"という存在は居ないはずなんだから…


生きたまま 殺されている

この状況から脱出する方法は、"僕"という存在の消去…それしかない
君は、その唯一の方法を禁じた。


「…縛られているって、自滅することを禁止されてるだけだろ。
 そんなの、縛られているなんて言わないね。」









彼に言われて、はじめて気付いた。
僕は、全てを縛られているわけじゃなかった。

  





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